充電器とモバイルバッテリーが一体となったAnker PowerCore Fusion 5000を分解してみた

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Powercore Fusion 5000と呼ばれるモバイルバッテリーが内蔵された充電器がAnkerより発売されています。このタイプの充電器はありそうでなかったもので、発売から絶大な人気を博しており、これはAmazonでも6000件に迫る評価を残していることからもわかります。
モバイルバッテリー内蔵型の充電器はAnkerが初出で、現在はGaN充電器で注目されているRAVPOWERなどでも発売されています。

そんな絶大な人気を誇るPowercore Fusionですが、半年くらい前からバッテリーの機能が使えなくなっていました。18ヶ月の保証期間もとっくに切れていたのですが、PowerIQがあるため充電器としては優秀なことから使い続けていました。つい先日RAVPOWERでUSB-AとUSB-Cが1ポートづつ出力端子としてついており、65Wと高出力でありながら5.5cm*5.5cm*3.1cmの小型サイズ、更には3500円(キャンペーン価格)との激安価格であったことから、この度充電器を買い替えました。

これらの経緯からPowerCore Fusionは現役引退となったわけですが、一番の特徴でもあるバッテリーが完全に機能しないためメルカリの海に放出するわけにも行かず、バッテリーが内蔵されているため単体の充電器としては大きすぎる重たすぎるとのことで、処分することにしました。ただで手放すのももったいないので、GW中は暇を持て余していることもあり供養のため分解記事を上げることにします。
分解の前に他の方が分解記事を出していないか一通り調べてみたのですが、日本語における記事は見当たりませんでした。実際に分解してみると、一般的なスイッチング電源と比べて二次側に電解コンデンサが見当たらないなど、バッテリー内蔵ならではの特徴的な回路構成がなされている点が見受けられたため、そちらも併せて紹介します。
筆者の専門は電力工学ですが系統方面(送電〜変電〜配電)のため、パワエレについては疎い部分がいくつかありますので、その点ご承知おき願えれば幸いです。


さて、この製品ですが購入履歴が残ってました。これによると2017年の11月8日購入なので2年半ほど前になります。発売から2年以上経っているので、そろそろ新しいモデルが発売されているのかな?
そんなPowerCore Fusionですが重大な欠点があって、「普段は充電器として使って、旅行時だけコンセントから取り外して持ち運ぶ」といった利用方法が推奨されているものではない事です。設計上の時点で、あくまでコンセントは充電のため、24時間365日コンセントにぶっ刺すことは想定されていないのです。そのため2年で全くバッテリーが使えなくなってしまうという悲劇を起こすことになります。

外装の分解

分解する前に、一通りこの充電器のスペックを再確認しておきます。
銘版によると容量が5000mAh18.5Whとなっています。
またバッテリーの出力は5V3A、一般的なUSB充電器としては大きめの値です。PowerIQの影響でしょう。気になるのがcharger outputでは2.1Aしか出力できない点です。これはおそらくコンセントに接続しながら使うモードを指していると考えられますが、なぜバッテリー出力よりも低いのでしょう。これは2年でバッテリーがおしゃかになることと関係していそうです。ちなみにPSEも取得しています。

 

こちらが開封全景となっており、外装は2つに分割できてます。
また中には基板が1つ、電池とつながっており、またコンセントに接続するために金具や部品が見受けられます。とてもシンプルな形をしています。制御回路がメイン基板に垂直に設置されている光景は一般的なスイッチング電源でも比較的目にしますが、ここまでガッツリL字型に基板が組まれているものは初めて見ました。

 

このパッケージは超音波で溶接されておりなかなかこじ開けるのが難しかったです。
最終的にはマイナスドライバーを用いて、こじ開けながら分解しました。
近年はスペース拡大のために超音波溶接を使うことが多いですが、分解は権利なので、できれば爪で接合して欲しいものです。

 

また分解はコンセント側から行いました。
超音波で全体が溶接と言うこともありなかなかドライバーが入りません。
なんとかマイナスドライバーを二本使い、片方のドライバーで隙間を作りながらもう片方のドライバーでこじ開けるといった方法でなんとか殻を開けることができました。外装はボロボロです。

 

コンセント部分はシンプルに、プラスチックがバネとなっています。

 

内部回路

こちらが開封したときの回路の全景です。
一般的なスイッチング電源らしく中央にトランスが鎮座、入力側に電解コンデンサが見えます。出力側に大きな電解コンデンサが見えませんが、この点については後ほど考察します。FET等については表面実装(SOP-8)のため、表面から確認することは難しくなっております。
やはり当初の予想通り大きな充電池が1つその上に回路が入っておりましたが、充電器が大きいのでこの充電器自体もどうしても大きくなってしまうようです。

 

一般的な充電器スイッチング電源の回路とらしく、一次側と二次側に分離されてる様子が見て取れます。下部のLEDとスイッチはそれぞれ充電のインジケータとバッテリースイッチですね。

 

バッテリーはsinowatt製の5000mAhの充電池です。サイズとしては26650に当たり、単2電池の長さを1.5倍に引きのばしたような大きさです。

 

またバッテリー端子は、オーソドックスな溶接スポット溶接が行われていました。

 

出力端子部です。上のUSB-Aは左の基板に垂直に付いており、下のMicro-Bは下の基板に平行に付いているのがおもしろいところです。

 

また基板上のプリントには2016年5月18日と書かれています。この基盤が設計されたのがおそらくこの日付なので、出荷の1年前には、すでに設計が出来上がっていたと考えることができます。

回路分析

もう少し回路をじっくり眺めてみます。

こちらが基板を部品側からから見た図になります。
後にも説明しますが、改めて回路の二次側に電解コンデンサがほとんどないのが見てとれると思います。また一次側の方にも大きなFETはありません。これはFETが表面実装となっているためです。

 

また裏面をよく見てみると二次側から一次側へのフィードバック用素子が見当たりません。おそらくなのですがこの回路は最初にバッテリーを充電し、そのバッテリーを経由してUSBへ出力しているものと考えられます。要は電圧の不平衡をすべてバッテリーが吸収しているということです。

JW7707CBEG7HA?らしきICが搭載されています。このうちJW7707Cはフライバックコンバーターに用いられる整流器で、FETが内蔵されています。おそらくですが、BEG7HAはトランスの補助巻線の情報から出力電圧をフィードバックし、FETのスイッチングまでを行うICのようです。そのためか、1~4番ピンにかけて、明示的にレジスタで絶縁を行っている様子が見て取れます。

 

また回路を横から見ると、中央部に1つの大きなICがあります。

専用ICの型番はNTMP2012A-1、左上のFETはそれぞれPK537BAPK636BAです。

 

 

またコンデンサにはChn Capと呼ばれるメーカーのものが利用されています。これは聞き覚えがなく、web上に情報もないようです。

 

出力回路部です。見ての通り、一般的なスイッチング電源には欠かせない電解コンデンサが全く見当たりません。おそらく回路構成として、[トランス+整流]→[バッテリー]→[電源出力]となっているため、多少の電圧変動はバッテリーが吸っていると考えています。

 

一次二次回路の分離部です。

ここからもわかるように、一次側と二次側をまたいでいる素子はバリスタのみとなっており、出力のフォードバック(と同等の動作)はトランスの補助巻線によって行っているようです。

 

充電制御ICにはNTMT2012A-1といったものが使われています。20ピンのSOPです。
このIC1つで充電制御等を全て行っているそうです。セブンのモバブにも同じ型番のものが搭載されています。また、このICを利用したモバブの回路が公開されています。

 

またはこちらの8ピンのパッケージのICになってます。
データシートからは30V46A、また30Wのスイッチング能力を持ちます。
そもそも出力が先ほどあったように3Aと比較的小さいため、スイッチング抵抗が10mΩほどしかないFET自身の発熱は、少ないものと推測されます。

 

所感

コンセプトは素晴らしいのですが、冒頭に書いたような「普段は充電器として使って、旅行時だけコンセントから取り外して持ち運ぶ」使い方をすると、すぐに痛むのが惜しい電源です。少し大きくなってもよいので、完全に充電器の回路とバッテリーの回路を分離してしまえば、バッテリーの痛みも多少軽減されるのかもしれません。

どうせ持ち運ぶなら、多少フットプリントが大きくなってもいいので、より平型だと持ち運びが楽かなと考えてます。ただ、充電器の要素を入れる以上どうしてもトランスがある程度の高さを取るので、この高さを如何に削るかが鍵となってきそうです。

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